自分史と心理学
心理学にもさまざまのものがあります。わたしが入ったのは心理学ではなく、実は星占いからでした。そのサイトはスイスのサイトです。スイスと言えば元型心理学の祖ユングの故郷です。その星占い師がユング心理学の資格をもっていて、星占いというよりかユング心理学を基礎に人生のあれこれの段階を説明する内容でした。その内容をよく理解するためにユング心理学を読むようになりました。
ユング心理学は読んで面白いし、その「元型」という発想は分かりやすいものです。しかしどうも食い足りませんでした。私はなんでも基礎からやらないと気がすまないタイプですから、心理学の祖フロイドを読み始めました。しかしフロイドは難しすぎます。彼の心理学にはそれなりに医学の素養が必要で読んだからと言って分かるものではありません。それでもフロイドの解説書などをせっせと読みました。それは前のブログで書いたように切羽詰まった問題があったからです。そのうちのひとつが「書痙」です。
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「書痙」という症状が現れたのは10年ほど前のことです。さいしょに発生した時ただの疲れか偶然だと思いました。そして症状はすぐに消えると思いました。ところがそれはなかなか消えずに私を苦しめました。症状はまことにシンプルです。自分の名前を英語でサインするときにだけ現れるのです。指の関節に問題があるのではないかと思いました。
症状はサインの時以外では現れることはありません。日本にいたならこの症状は看過されたかも知れません。英語でサインなんかめったにしないからです。ところが香港でしたから大変でした。船積書類から、小切手、クレジットカードなど全てがサインの世界でした。
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この症状が起きるのは特に小切手にサインする時でした。初めて小切手に英語でサインしたのはそれ以前にも香港に赴任し関係が悪かった会社に出向した時でした。私には関係修復と決裂の場合の財産評価という二つの任務が与えられていました。
相手会社の日本人は何をしにきたのという態度で私に当たります。それを知っている現地のスタッフは何かにつけて私のあげ足を取ろうとします。諸経費支払いの小切手に金額を入れてサインをするのも私の仕事でした。英国式の金額の記入は法的にもこまかい決まりがあってなかなか慣れませんでした。そしてたびたび現地スタッフから突き返されました。一方頼りにしていた家内は病気になりその後は自分だけの生活に集中するようになりました。
この約20年前の思いが「書痙」として現れました。そして他にも自己を振り返る必要が起きました。「自分の生き方は正しかったのだろうか。今の自分のやり方は正しいのだろうか」という疑問です。それは「書痙」に加えて中国に出張する朝に起きるこむら返りです。私はこむら返りのくせがなかったので中国出張という朝に起きるこむら返りには驚きました。中国と言っても香港から河ひとつ向こうの深センです。その他に飲みに行くと自分を制御できないくらいに散財することにも悩まされました。老後の蓄えが目に見えて減っていきます。
心理学者の新宮一成氏は「人は死を予感する年代になると人生の再構築が必要になる」と言います。私もちょうどそのような年齢になっていたようです。最初は「書痙」という過去のトラウマを想起させる症状が現れ、そして中国に相対せずに逃げていた自分に対する叱責、更には感情問題の未整理な部分を再構築するという任務が浮かび上がって来たのでした。それで自分史を書き始めました。
最近はもう「書痙」が現れることはありません。だが理由がはっきりした訳でもありません。心理学では原因を幼児以前にまでさかのぼって究明するようです。しかしそれには専門家がついていないと危険です。更に分析は長期間で費用もかかります。また分析家が未熟だととんでもない事になるリスクが伴います。
そのため私は自分の分かる範囲で心理学の勉強をしました。この期間はほとんどがユング心理学でした。特に『MEETING THE SHADOW』The Hidden Power of the Dark Side of Human Natureという自分の「影」についてのユング派の人や経験者たちが書いた本が役に立ちました。
結果的に私は過去の価値観を一旦はすべて捨てることになりました。この事が良かったかどうかは自分でも分かりません。ただ今はあまり煩悩なく生きているいるような気がします。
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