英語初通訳 1/5

アメリカの孫とサウザンアイランドで
英語通訳の話がありました。

中国語が専門ですから英語での経験はありません。ましてや私の英語は独学でしかも読学だけで鍛えた英語です。通訳はとても出来ないと思っていました。

こんどの話しは純然たる日米通訳です。しかも数ヵ月にわたる長期の仕事です。登録会社には専門ではないからと断りました。翻訳ならば時間があれば対応できます。しかし通訳は瞬時が勝負です。とても出来ないと思っていました。

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通訳の主流は女性たちです。それで会社に彼女たちに頼んで下さいと言ったのですが、ところが彼女たちは工場内のアテンドは好まず、会議での通訳ならやりますが……と会社は断られたそうです。それで私におはちが回ってきたのです。会社もできることなら私を使いたくはなかったでしょう。

とは言え、英語の通訳の経験がない人間にこのようなチャンスはめったにめぐってきません。もしこれを逃がすと次はないだろうとその時思いました。やれるかどうかの自信は全くありませんが、まぁ、自分の実力を見極める良い機会だとして引き受けました。

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実践

初日はやはりさんざんでした。


初日は滞在中に守らなければならない入管の注意を通訳するように言われていました。
説明には対訳のテキストがあるから何とかなると思っていました。ところが説明者はテキストを離れて日本語で内容を説明をはじめたのです。

こちらはそれを英文テキストの中から探しだそうとしますが見つかりません。しどろもどろで言葉をつなぐ私にアメリカ人は当惑します。私の言っていることがほとんど分からなかったはずです。

つぎに日本人の説明者が「テキストを見て下さい読んでいきます」と言った時にはホッとしました。
私は最初は説明者が日本語で読むテキストを書いてある通りに読んでいましたが、書いてあることと同じなので読むのをやめました。ただ説明者が時々行う解説をテキストの英語から抜き出して自分が言える範囲で訳しました。

アメリカ人には、私の言っていることはほどんど分からなかったようです。ただ説明者が「この内容は退屈だから寝ててもかまいませんよ」と言った時はうまく訳せたので爆笑もありました。そうしてなんとか一日目を終わらせることができました。

一日目が終わり、「明日もよろしくお願いします」と言われた時、ほんとうにほっとしました。しかしその時は明日も続けられるという喜びよりかは、明日もおなじ苦行が待っているという苦痛の方を強く感じました。

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2日目は市役所での手続きの付きそいでした。

これはただ待っているだけの仕事です。市役所の人と交わす会話の内容は単純です。しかし「居留書」や「この欄に記入してください」などの単語がすぐには出てきません。昼休みは私のレベルを知っているアメリカ人が話しかけてくることはほとんどありませんでした。

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3日目に工場の現場に入りました。

現場でならばなんとかなるという自信はとうに消え失せていました。普通工場見学の場合モノを前にして質疑応答が行われます。中国語なら初めて行った工場でも現物があれば何とかなります。しかしアメリカ人の質問が聞き取れず、こちらが言っていることもほとんど相手には伝わらずまったくお手上げの状態です。アメリカ人の目には「この通訳はもうすぐ交代するはずだ」という期待の色が伺えます。

あぁ~はやくクビにしてくれよ……という気持ちになりました。

この日派遣会社から連絡があったので客先の反応を聞いたところ、意外にも「満足している」という返事でした!ホッとするやらガッカリするやらです。

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4日目にグループが小さく分かれました。

最初10人以上のグループでしたが、2人から4人程度の小さなグループに分かれました。会社が雇った通訳はどうやら私一人だけらしく、多少英語が話せる人のいる現場は通訳なしでやりくりし、その他は私が兼任することになりました。

グループが小さくなった分、機械の種類も少なくなりました。それだけ細かい質問が出てくるようになりました。質問がよく聞き取れない上、こちらの訳も分かりにくいようで、アメリカ人の顔色を伺うと何時も「こいつは何を言いたいんだ?」という気配を感じます。一方説明をしている日本人は、話があまり通じていないことには気がつかないのかあまり気にせず話をします。

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変化

5日目に入ると大きな変化がありました。

別に何かが上達した訳ではありませんが、それはアメリカ人の会話のやり方がやや掴めて来たからです。

彼らは言葉をプツプツと区切って会話をしています。まるで女子高生の「あれさぁ」、「それってさぁ」、「結果そうなのよ」、「それじゃだめなのよ」という具合に、要点だけを話して主題が分からなければ意味をなさない言葉のやりとりしているのが分かりました。

日本人に質問をする時にも、主題のない聞き方をよくします。それで内容を聞き取ろうとしても、話題が分からないから何を言っているのかが分からなかったのです。

彼らはSVOのように主語・動詞・目的語がそろった会話をしていると思い込んでいたので、何とか意味を掴もうとしていた私がばかでした。彼らは通訳を使った経験もなかったのでしょう、日常会話のようにただブツブツと片言を言っては問いかけて来ました。

それからは「聴いてわからないのは当たり前」と思うようになり、私自身も英語が下手くそだが、相手の言い方も悪いと思うようになりました。それで主題や質問の趣旨をたしかめるようにしました。

もうひとつの進歩

それまでは顧客にこちらの能力を証明しなければという思いから、話がおわるとすぐに訳さねば焦っていました。しかも中国語なら日本語で話された内容がある程度くぎりがついてから訳していましたから、英語もそのように訳そうとしました。ところが英語の能力はとてもそこまでは達していません。

そこで日本語を段落で訳すのではなく、小さくても意味のまとまりをつかむとすぐに訳すようにしました。こうすれば少ない単語で訳すことができます。文章はブツブツと切れますがこのほうが相手も分かりやすいようです。こうしてまがりなりにも最低のコミュニケーションが取れるようになりました。

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→次回 慣れる


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