言葉の孤児 日本語と韓国語

世界の言語の中で孤児と言われている言語に日本語と韓国語がある。さらに日本と韓国は構文がほぼ一致するのに音韻体系がまったく違うという不思議な言葉である。まず漢字音を除けばまったく違うのである。この2つの地域は狭い対馬海峡で隔たれており氷河期には歩いて渡れたという。

音韻体系とはある人間が母語から学ぶ音の区分体系である。日本人には日本語の音韻体系があり、韓国人には韓国語の音韻体系がある。この音韻体系はほとんどが母親から学ぶと言っても過言ではない。最近読んだ研究では音韻体系は14ヶ月で確立するとあった。それ以降は他の言語の音韻体系は理解できないとある。

『外国語に母音を挿入して聞く「日本語耳」は生後14ヶ月から獲得』理化学研究所2010

日本人の母親と韓国人の母親が民族的に大きく違うのかというとそうでもない。NHK出版『日本人になった先祖たち』篠田謙一氏の日韓母系遺伝子の分布を見ればあまり差がない。とすれば母系の遺伝子よりも母系に言語的な影響を与えた要因が考えられる。

言葉は生ものである。最近特に感じるのが言葉が変質しやすいという点である。英語なんかはここ1500年ほどで全く変わってしまった。構文的にはもは屈折語とは言えないようだ。しかし音韻はゲルマン系にたどり着くことができる。だから英語は孤児ではない。母親の実家がわかるからだ。というわけで日本語と韓国語の実家を調べるとどうだろうか。

『言語学者の大野晋氏は日本語の成立は弥生文化の成立とともに朝鮮南部の言語が北九州から近畿にひろまり弥生文化の東方への拡大に伴って東にまで広まり、奈良時代の言語に似た原始日本語が成立したと推測している』と都出比呂志氏が岩波新書1325に書いているが、弥生時代自身が最近の研究では500年もさかのぼり更に当初の稲作と鉄器の同時伝来が否定され、初期の600年は石器だけの時代となり、且つ伝播が遅々として進まなかった事が分かって来たので、この弥生文化=移民文化=移民言語という単純な論理が成り立つかは疑問である。

日本語と韓国語の構文がアルタイ語系であるらしいと思っている人は多い。だがアルタイ語のような膠着語はアルタイ語系のみならず世界の半分の言語を占めている。中国語の親戚であるチベット・ビルマ語もそうである。シナ・チベット・ビルマ語族はアルタイ語族とは別だから日本語と韓国語の構文はチベット・ビルマ語から変化したのかも知れない。

日本語と韓国語の音韻が大きく違うのはその基本語彙だけでなく音韻体系で使用する音素の配列が大きく違う。日本語は基本的に母語で終わる開音節だが韓国語は子音で終わる閉音節も多い。上で述べたように日本人の子どもは14ヶ月でパッチムのように孤立した子音には後ろに母音をつける「日本語耳化」を確立するが、韓国人の子どもは母音はつける必要がないので「日本語耳化」することはない。この閉音節の言語は中国では唐代までは盛んであったがそれ以降は徐々に喪失し現在は南方方言にだけ残されている。

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言語の構文は支配者の言語に変わりやすい。現在の韓国語は新羅語を祖語とするが新羅の言葉は古来から閉音節がある言葉だと分かっている。「梁書」にはそれ以外に高句麗と百済の言語は母音終わりであるとも書いている。音韻体系があまりにも違うとやはり語族や語群に入れるのは難しい。日本語と韓国語は音韻体系が大いに違う。だから同じアルタイ語系だと言われても音韻体系が違うから孤立言語となった。

私は韓国語の祖語は意外と中国南方あるいはタイ・カダイ語の祖語から分離したのではないかと考える。だが根拠はない。同じように日本語もビルマやチベットの山奥で親戚が見つかるかも知れない。

この二つの言語を純然たる孤立言語と見るかそれとも姉妹言語と見るかは時の政治に左右される問題である。

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